日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎ガイドラインでは、「アトピー性皮膚炎」の概念として
アトピー性皮膚炎は,増悪・寛解を繰り返す,瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ
アトピー素因とは?
- 家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー 性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)
- または IgE抗体を産生し易い素因.
上記はあくまでも概念であり診断基準とは違う点に注意してください。
概念も一般の方向けに説明されているものではありません。簡単に説明(翻訳と言っていいでしょうか)をさせていただくと
- 例えば患者さんにとってみてご両親やご兄弟などのアレルギー疾患(喘息や花粉症を含むアレルギー性鼻炎や結膜炎、アトピー性皮膚炎)の持病がある方がいる。
- IgE抗体とは血液検査をしないとわかりませんが、いわゆるアレルギーの抗体のことを指すものです。抗体とはそもそも病原菌やウイルスなどの外敵に対する敵専用ミサイルみたいなものです。敵が体に侵入すると血液中の白血球がその敵の侵入を感知し、直接敵と戦うだけでなくミサイル発射するように指令します。指令を受けると抗体(ミサイル)は敵を目がけて飛んでいき敵を撃墜します。人間の抗体は不思議なものでちゃんと敵なのかあまり相手にしなくていいものなのか判別しています。ただアレルギーを持っている方は例えばダニや花粉などに対し過剰防衛状態になっており、抗体(敵専用のミサイル)をたくさん準備してしまっています。抗体(ミサイル)がたくさんありすぎると、敵が進入すると多くのミサイルが敵を目がけて飛んでいきます。そして戦争(炎症反応)が起きます。正常な免疫(防衛)システムですとミサイルが必要なウイルスや最近に対しては持っていますが、本来スルーするようなもの(食事であったり、ダニやハウスダストなどなど)に迎撃ミサイルが準備されてしまっています。
かなりおおまかに書いてしまいましたが、だいたいそのようなことがアレルギーを持っていらっしゃる方の身体の中で起きているのです。
IgEって何の略か Immunoglobulin E 日本語では免疫グロブリンE分画と言ったりします。
免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があり、それぞれの分子量、その働く場所・時期にも違いがあります。先ほど説明したウイルスや細菌に対する抗体はIgGに属しています。
IgGは免疫グロブリンの主役で8割を占めています。主には細菌やウイルスの抗体で血液中にたくさん分布しています。
それに対しIgEは5戦士の中で一番メンバーが少ないマイナーな存在ですが、アレルギーの抗体です。
アトピー性皮膚炎の診断基準(2021 日本皮膚科学会ガイドラインより引用)
- そう痒
- 特徴的皮疹と分布
(1)皮疹は湿疹病変
・急性病変:紅斑、浸潤性紅斑、丘疹、漿液性丘疹、鱗屑、痂皮
・慢性病変:浸潤性紅斑・苔癬化病変、痒疹、鱗屑、痂皮
(2)分布
・左右対側性 好発部位:前額、眼囲、口囲・口唇、耳介周囲、頸部、四肢関節部、体幹
・参考となる年齢による特徴
乳児期:頭、顔にはじまりしばしば体幹、四肢に下降。
幼小児期:頸部、四肢屈曲部の病変。
思春期・成人期:上半身(顔、頸、胸、背)に皮疹が強い傾向。 - 慢性・反復性経過(しばしば新旧の皮疹が混在する):乳児では2ヵ月以上、その他では6ヵ月以上を慢性とする。 上記1、2、および3の項目を満たすものを、症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する。そのほかは急性あるいは慢性の湿疹とし、年齢や経過を参考にして診断する。
【除外すべき診断】(合併することはある)
- 接触皮膚炎
- 脂漏性皮膚炎
- 単純性痒疹
- 疥癬
- 汗疹
- 魚鱗癬
- 皮脂欠乏性湿疹
- 手湿疹(アトピー性皮膚炎以外の手湿疹を除外するため)
- 皮膚リンパ腫
- 乾癬
- 免疫不全による疾患
- 膠原病(SLE、皮膚筋炎)
- ネザートン症候群
【診断の参考項目】
- 家族歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎。アトピー性皮膚炎)
- 合併症(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎)
- 毛孔一致性丘疹による鳥肌様皮膚
- 血清IgE値の上昇
【臨床型(幼小児期以降)】
- 四肢屈側型
- 四肢伸側型
- 小児乾燥型
- 頭・頸・上胸・背型、痒疹型
- 全身型
- これらが混在する症例も多い
【重要な合併症】
- 眼症状(白内障、網膜剥離など):とくに顔面の重症例
- カポジー水痘様発疹症
- 伝染性軟属腫
- 伝染性膿痂疹
難しいですよね。読んでも訳がわかりません。
でもまた簡単にまとめるとかゆみのあるような左右対称にできる湿疹病変(診断基準では急性病変と慢性病変に分けて書いてありますが専門用語で書いてありますので、医療関係者でないと普通はわからなくて当然です)が、良くなったり(寛解)、悪くなったり(増悪)を繰り返す。
乳児(1歳未満)では2ヶ月、それ以降のお子さん、あるいは思春期、成人期の方は6ヶ月以上にわたり湿疹が繰り返すことが診断基準の根本です。
概念で出てきたIgEの話は診断基準の中では参考項目で出てきますが、診断をするにあたって必須項目ではありません。
ですから血液検査でアトピー性皮膚炎かどうか決めているわけではありません。診断基準はあくまで皮膚科医師が主体となり作成がされたものです。ただガイドラインは作成され診断基準が明確に定められているのにもかかわらず、皮膚科あるいは小児科でもこの点が非常に曖昧になっている印象を受けます。
患者さんのご家族やご本人にお聞きしても今まで同じような症状が出ていたにもかかわらず、乾燥肌、乳児湿疹や肌荒れなどと他のクリニックで診断されている患者さんが非常に多いといった印象を受けます。
ではなぜ診断基準が大事なんでしょうか?
誰でも我が子が急にアトピー性皮膚炎ですと言われたり診断を受けてしまうとショックですよね。
当院ではガイドラインを基本にした治療を行なっています。脱ステロイド療法や特殊な治療は行なっておりません。
近年ステロイド以外にも免疫抑制剤外用剤や生物学的製剤の注射療法も行われております。
当院でできない治療などは近隣大学病院皮膚科に紹介させていただくことも可能です。
- アトピー性皮膚炎と診断するにあたり治療の目標が明確になります。
- 診断を受けることでガイドラインに基づいた適切な治療が受けられます。
- 今だけ良ければいいというものではありません。
- 経過は長くなる可能性がありますが、自然治癒も十分可能性があります。
- コントロールの重要性が非常に大切です。定期通院されている方のほうが明らかに状態は安定してきます。
- 治療の基本は保湿だと思っています。
- 当クリニックでできることは適切に診断し、適切な治療を受けていただくことだけです。
- 私が治すのでなく一緒に見守っていきますので、特に小さいお子さまのご両親とともにどうしたらいいのかを考えていきましょう。